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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)72号 判決 1997年10月07日

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  原告は、「平成七年四月二三日施行の秩父市議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)における被告の当選は、無効とする。被告は、本判決が確定した時から五年間、秩父市において行われる秩父市議会議員選挙において、候補者となり、又は候補者であることができない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  本来の請求原因は、「被告は、本件選挙に立候補して当選し、同市議会議員として在職している者であるが、被告の長男で、右選挙に際し、被告と意思を通じて選挙運動をしていた山中一彦(以下「一彦」という。)について、同人が、同選挙に立候補した被告を当選させる目的で、被告の選挙運動者である福島平蔵と共謀の上、平成七年四月一九日から同月二三日までの間、秩父市上影森九五番地一所在の被告選挙事務所付近外一五か所において、同選挙の選挙人であり、かつ、被告の選挙運動者である新井幸助外一一名に対し、被告のために投票すること及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として、現金合計四四万円を供与し、もって、公職選挙法二二一条三項三号、一項一号の罪を犯したとして、同年八月二四日、浦和地方裁判所において、右の罪により、懲役一年六月(執行猶予五年)に処する旨の判決を受け、右判決は、控訴、上告を経て平成九年三月一八日確定したので、検察官である原告は、同法二一一条一項に基づき、被告に対し、当選無効及び立候補の禁止の判決を求める。」というものである。

三  しかしながら、同法二一一条一項の規定は、検察官が、同法二五一条の二第一項各号に掲げる者が同法二二一条の罪を犯し刑に処せられたため、同法二五一条の二第一項の規定により当該当選人の当選が無効となると認めた場合に、同法二一〇条に規定する場合を除くほか、当選無効及び立侯補禁止の訴えを提起すべきことを定めたものであって、同法二一〇条に規定する場合には、同法二一一条の規定による訴えを提起することができないところ、本件記録によれば、一彦は、被告の出納責任者として、同法二二一条一項一号の罪を犯したとして、同条三項三号の規定により右刑に処せられたものと認められるから、本件は、同法二一〇条一項の規定が適用され、同法二一一条一項の規定の適用が排除される場合に当たるものというべきである。

そうすると、検察官の提起した本件訴えは、訴訟要件を欠き不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 小林亘 佐藤陽一)

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